うちは親子4代続く漁師だけど、私は、奄美大島を離れて神奈川県でサラリーマンをやっていた。それで会社をやめて奄美に戻って漁師を始めた。高校から島を離れていたので、奄美の海に出たのは約20年ぶり。だいぶ変わっていましたね。
海底のホンダワラ(海藻)が全くなくなっているし、ウニや貝もいなくなっている。サンゴも死んで、砂浜が削られて木の根っこが露出していたり、海岸線の地形もかなり変わっている。
毎日、見ていたら気づかないかもしれないけど、20年ぶりに見るとその変化にびっくり。
それから、20年ずっと漁師をしていますが、魚は減ってきている気がしますよ。獲れない周期が長くなっている。漁協でも稚魚放流や海底の藻場を増やす、といった対策はしていますが、すぐに効果が出るものはない。
カツオ漁は、夜中に港を出て、翌日の昼ぐらいに帰ってくる。私の船は乗組員2人程度、4.8トンの小型一本釣り漁船なのですが、1回の漁で平均1トン、約500匹の水揚げがあります。実質、釣っている時間は1時間ぐらい。でも、釣れない日は、移動が多く時間だけがかかる。
漁には海が時化(しけ)だとダメですけど、凪が続いてもダメ。たまに時化て海を洗濯してもらうと、魚の入れ替わりがあって海にもいい。
季節ごとのカツオの回遊ルートはだいたいわかっているけど、やっぱり、漁に出てみないとわからない。自然相手だから難しいですよね。
うちの鮮魚店では、自分で釣ったその日の魚を店に並べている。お客さんに喜んでもらいたいから、刺身も大きいですよ(笑)。カツオの刺身は、血合いの部分をとるところも多いけど、せっかくなら全部食べてほしいから、うちではそのまま。活きが良く生臭くないので、全部おいしく食べられます。
刺身が残ったら「漬け」にするのがおすすめ。うちでは、ニンニクとマヨネーズ、酢としょうゆで作ったドレッシングに漬けておく。あと、意外においしいのが天ぷら。
カツオは一本買いすると丸ごとおいしく食べられます。刺身で鯛茶漬け風にするのもいいし、塩コショウしてバターで炒めたり、中華風にしてもいい。塩茹でしてオリーブオイルであえると保存もできる。アラはいいだしが出るから潮汁にすればいい。内蔵は塩辛にもなりますね。
奄美のカツオは、三陸沖で獲れるカツオよりも脂が少なくてあっさりしている。だからいろんな料理ができるんですよ。まだまだおいしい食べ方あると思いますよ。
主婦の方に料理教室などで教えることもあるんですけど、私の料理は簡単にできるから、喜ばれます。カツオのタタキって面倒ですよね。
うちの店のオリジナルは、5枚におろして酢でしめた「〆カツオ」。鯖と違って身が厚いから中は生に近いまま。さっぱりしていて夏バテ防止に好評です。
毎日、海に出ていると、黒潮にのっていろんなものが流れてきますよ。ペットボトルとかビニール袋とか。前に、ツムブリという魚を釣り上げたら、プラスチックの首輪をしていたんですよ。外国からのゴミも多い。海はつながっているから日本だけの問題じゃないですよね。
潮の境目できれいな青色と濁った色に分かれていることもある。そういうのを見ると奄美の海も汚れているのかなあと思いますね。
もちろん、うれしいこともあります。今年、十数年ぶりに12kgの本マグロの子どもを一本釣りすることができたし、キハダマグロ57kgを一本釣りしたこともある。宝くじよりも難しいんですよ。これは自然からのプレゼント。
都会から来たお客さんを船にのせて夜釣りやカツオ漁に連れていくこともあるんですが、みんな、全然海の色や星空が違うって感動してくれる。奄美の海のすばらしさを感じてもらえるのは、本当うれしいし、誇りに思います。
都会で疲れたり、人生をリセットしたいときには、奄美大島に来て船に乗って、自然に触れてみるのもいいですよ。