飼料用アミノ酸とは

動物のからだを構成するたんぱく質は、20種類のアミノ酸でできていますが、そのうち数種のアミノ酸は、動物体内では必要要求量が合成されないことから、配合飼料で補わなければなりません。これらのアミノ酸は必須または不可欠アミノ酸と呼ばれており、動物の種と成長段階によっておよそ10種類の異なる必須アミノ酸があります。飼料にアミノ酸を添加することにより、飼料原料コストの削減、飼料効率の改善、成長促進を図ることができます。飼料用アミノ酸の代表的なものとして、リジン、メチオニン、スレオニン、トリプトファン、バリンなどがあります。味の素グループでは、リジン、スレオニン、トリプトファン、バリンを生産しています。

天然飼料原料中のリジン含有量

主要な飼料原料のうち、リジンを比較的豊富に含む大豆粕(2.7~2.9%)に比べて、トウモロコシ(0.22%)、小麦(0.3%)などはリジンを少量しか含んでいません。
リジンの不足する飼料にリジンを添加することで、アミノ酸バランスが改善され、その結果飼料効率が高まるのに加え、窒素排泄量を減らすことができます。

桶の理論

下の桶の模型の図は、たんぱく価を表しています。桶を形づくる個々の桶板はアミノ酸の充足度を示します。桶1は、小麦のアミノ酸バランスを表しています。桶2のように次に不足するスレオニンのレベルまでリジンを添加することにより、飼料中のたんぱく価はそのレベルまで増やすことができます。また桶3のように、次に不足しているアミノ酸(トリプトファン)のレベルまでリジンとスレオニンを添加することにより、栄養価はさらに改善されます。小麦のたんぱく質の栄養価はリジン、スレオニンの添加により、25~50%改善します。

アミノ酸を添加した飼料から畜産製品までの流れ

飼料用アミノ酸は、大豆粕、トウモロコシ、小麦などの天然飼料原料に、ビタミンなどとともに添加されて配合飼料になります。

家畜に必要なアミノ酸

穀物相場とリジン価格およびスレオニン価格との関係

リジンは天然飼料原料の中で、たんぱく源である大豆粕には多く含まれ、エネルギー源であるトウモロコシにはあまり含まれていません。例えば大豆粕の価格がトウモロコシの価格に比べて割高になった場合、飼料メーカーはより多くのトウモロコシを使用することにより、飼料コストの削減が可能となります。
しかしこの場合、動物のリジン要求量を満たすためにはリジンが添加されなくてはなりません。理論上、リジンの上限価格は大豆粕から供給されるリジンのコストとの比較で算出可能です。この上限価格をシャドープライス(またはオポチュニティプライス)と言います。リジンの価格がシャドープライスに達するまではリジンは一定の率で添加されますが、シャドープライスを超えると、飼料のコスト上昇を引き起こすことから、リジンの添加率が制限されます。
シャドープライスは、飼料の種類、動物の種と成長段階により異なります。このシャドープライスは、たんぱく源である大豆粕とエネルギー源であるトウモロコシの価格差が大きいほど、高くなります。この価格差をスプレッドと言います。欧州では、エネルギー源として北米のトウモロコシの代わりに小麦が使われますが、同様に大豆粕と小麦の価格差がリジンのシャドープライスを決定します。
スレオニンも同様に、スプレッドの影響を受けます。また、一般的にスレオニンはリジンの次の制限アミノ酸となるため、そのシャドープライスはスプレッドのみならずリジン価格にも影響されます。リジン価格が安いときはスレオニンのシャドープライスは上がり、リジン価格が上昇するとそれは下がります。

■リジン需要発生要因

■スプレッド(大豆粕とトウモロコシの価格差)とリジン・スレオニン価格との関係

■スレオニンとリジンの関係
スレオニン価格がスレオニンのシャドープライスより相対的に低い場合 


スレオニン価格がスレオニンのシャドープライスより相対的に高い場合

飼料用アミノ酸の貢献:天然のたんぱく質の節約と耕地の有効利用

飼料用アミノ酸は天然のたんぱく質の節約作用と耕地の有効利用にも役立っています。一般に、飼料中の大豆粕は以下の計算式により、トウモロコシおよびリジンと置き換えられます。
(50kgの大豆粕 = 48.5kgのトウモロコシ + 1.5kgのリジン)
これは、1トンのリジンが使われることにより約33トンの大豆粕が節約できることを意味しています。世界で使われているリジンは、飼料生産の増加とリジンの使用が進んでいるため毎年増加傾向にあります。例えば、120万トンのリジンが使われた場合は、およそ4,000万トンの大豆粕が、3,880万トンのトウモロコシと、リジンに置き換えられたということを意味します。
これによって削減できる大豆粕の生産量を必要農地面積という面で見ると、トウモロコシの単位面積当たりの収穫量は大豆に比べて格段に大きいため、大豆粕をトウモロコシとリジンに置き換えることにより、およそ1,400万ヘクタールの削減効果を潜在的にもたらしています。言い換えれば、仮にこの世にリジンという製品がなかった場合、現在の食生活を維持するには、これだけの土地を新たに開墾して大豆畑をつくり出す必要があります。

飼料用アミノ酸の貢献:環境問題

畜産動物の飼料配合はコンピューターを用いた自動計算が主流ですが、そのリニア・プログラミング(LP)方式により、入手可能な飼料原料を用いて必須栄養素を満たす最低コストの配合が決められます。『桶の理論』に基づいて、リジンなどの制限アミノ酸を添加することで、飼料のアミノ酸バランスが改善され効率良く利用されるようになります。このため従来必要とされていた植物たんぱく源の飼料原料を、この制限アミノ酸の添加により減らすことができます。これまで制限アミノ酸を添加せずに使用されていた植物たんぱくでは、バランス良く利用されない過剰なほかのアミノ酸などのたんぱく源があり、この余剰のアミノ酸は家畜に利用されることなく、窒素化合物として排泄されます。この窒素化合物からアンモニアが生成され悪臭の原因となり、土壌や表層水、地下水の汚染につながります。この窒素による環境汚染は、畜産業における大きな関心事です。
一方リジンを添加する場合、配合飼料のLC(ライフサイクル)-CO2 (原料製造から生産、使用までの総CO2生産量)を削減できる効果があります。(試算として飼料1トンのLC-CO2はリジン1kg添加ごとに2.4kg削減されることになります※)
このように、制限アミノ酸を飼料に用いることで余分なほかのアミノ酸・たんぱく質の摂取量を減らすことができ、その結果として環境への窒素あるいはLC-CO2の排出を低減するという環境問題の解決に貢献していると言えます。

 

※ LC-CO2は、現在の味の素グループのリジン製造の平均的数値と、大豆粕、トウモロコシを前提にした飼料での試算であり、必ずしもリジンに一般的に成立するものではありません。