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2014年10月7日
血中アミノ酸濃度バランスを指標とした
膵臓がんの早期発見技術を開発
2014年9月25日(木)第73回日本癌学会学術総会にて発表

 味の素株式会社(社長:伊藤雅俊 本社:東京都中央区)は、大阪府立成人病センター(大阪府大阪市)片山和宏副院長を中心としたグループと共同で、膵臓(すいぞう)がんにおける血液中のアミノ酸濃度バランスの変動に関する研究を推進してきました。このたび、片山副院長らは、膵臓がん患者において、健康な人と比較して血中アミノ酸濃度バランスの有意な変化を認め、複数の血中アミノ酸濃度を用いた多変量解析により、膵臓がんの発見に応用可能であることを、多施設試験で明らかにしました。この研究成果は、2014年9月25日(木)に第73回日本癌学会学術総会(神奈川県横浜市)で発表されました。今後、当社は本成果による事業化を検討していきます。

 膵臓がんの患者数はここ30年間で大幅に増加しています。膵臓がんは早期では自覚症状が少なく、約6割の患者が手術不能な進行がんの段階で発見されます。膵臓がんは5年生存率が7%で難治がんと言われていますが、手術が可能な早期がんの段階で見つかることで、進行がんの段階で発見される場合と比べ長い延命や治癒が期待できます。
 当社は、血中アミノ酸濃度のバランスの変動を統計学的に解析・指標化し、健康状態や疾病リスクを明らかにする「アミノインデックス技術」の研究開発を行っており、これまで6種類のがん(胃がん、肺がん、大腸がん、前立腺がん、乳がん、子宮・卵巣がん)において、5mlの血液(採血1回分)で簡便に早期発見できる可能性を発表してきました※1、2、3。今回、新たに膵臓がんにおいて、「アミノインデックス技術」の有用性を検証しました。

【研究概要】
 複数の病院や人間ドックから360名の膵臓がん患者と、対照として8,372名の健康な人の臨床症例を集め、血中アミノ酸濃度バランスを測定することにより、膵臓がん患者と健康な人とを判別する可能性を検証するための臨床研究を実施しました。
 その結果、健康な人に比べ膵臓がん患者では、血中アミノ酸濃度バランスが有意に変化していることが示されました。(図1)

図1 膵臓がん患者の血中アミノ酸濃度バランスの変化
膵臓がん患者の血中アミノ酸濃度バランスを、健康な人を0とした時の相対値として示しました。
正の方向にプロットされたアミノ酸(赤)は健康な人よりも増加、負の方向にプロットされたアミノ酸(青)は健康な人よりも低下していることを示しています。

 今回の研究では、膵臓がん患者と健康な人を判別する判別能はROC曲線下面積※4で0.86であり、「アミノインデックス技術」を用いることで、膵臓がんに罹患しているリスクをスクリーニングできる可能性が示されました。さらに、手術の可能性のある比較的ステージの早い(UICCステージⅡBまでの※5)患者でも進行がん患者と同様のアミノ酸パターンを示し、ROC曲線下面積で0.81と優れた研究結果が得られました。

 今回の研究で得られた知見を応用することで、血液だけで簡便に検査を行えることから、膵臓がんの早期発見の可能性が期待されます。当社は、2011年から「アミノインデックス技術」により「アミノインデックス®がんリスクスクリーニング(AICS)※6」として複数のがんで事業化しており、来年に今回開発された膵臓がんの早期発見技術についても事業化を目指します。
 今後、当社は「アミノインデックス技術」を応用し、がんを含めた様々な疾患の可能性の早期段階での発見を目指して、研究開発を継続していきます。

図2 「アミノインデックス技術」の概要


参考資料

学会発表の題名・発表者
血漿中アミノ酸プロファイルによる新規膵臓がんスクリーニングマーカーの検討
Investigation of novel pancreatic cancer screening marker based on the plasma free amino acid profile.
福武伸康1、上野誠2、平岡伸介3、島田和明3、白石光一4、猿木信裕5、山門實6、小野信和7、今泉明7、菊池信矢7、山本浩史7、片山和宏1
1.大阪府立成人病センター、2.神奈川県立がんセンター、3.国立がん研究センター、4.東海大学医学部付属大磯病院、5.群馬県立がんセンター、6.三井記念病院、7.味の素株式会社 イノベーション研究所

※1:Plasma free amino acid profiling of five types of cancer patients and its application for early detection Miyagi Y, Higashiyama M, Gochi A, Akaike M, Ishikawa T, Miura T, Saruki N, Bando E, Kimura H, Imamura F, Moriyama M, Ikeda I, Chiba A, Oshita F, Imaizumi A, Yamamoto H, Miyano H, Horimoto K, Tochikubo O, Mitsushima T, Yamakado M, Okamoto N PLoS One (2011) 6: e24143

※2:「アミノインデックス技術」を用いたがんスクリーニング 岡本直幸 人間ドック(2011) 26:454-466.

※3:「アミノインデックス技術」を用いた新規婦人科がんスクリーニング法の有用性 宮城悦子、沼崎令子、中西透、片岡史夫、猿木信裕、井畑穣、伊藤則雄、吉田憲生、新原温子、村松孝彦、今泉明、山本浩史、高須万里子、光島徹、杤久保修、山門實、青木大輔、平原史樹 人間ドック(2012) 26:749-755

※4:ROC曲線下面積
ROC(受信者動作特性)曲線は、ある検査によって正しく診断される確率をあらわす指標で、その曲線下面積は、0.5〜1の値を取り、理想的な検査では値が1になります。一般に0.7以上の場合には有効な検査、0.8以上の場合には優れた検査とみなされます。

※5:UICCステージ
国際対がん連合により作成された「TNM悪性腫瘍の分類」に基づくステージ分類であり、欧米でも広く利用されています。膵臓がんの場合、UICCステージⅡBまでで切除率が高く、ステージⅢ、Ⅳは切除不能であることが多いステージです。

※6:「アミノインデックス®がんリスクスクリーニング(AICS)」
血液中のアミノ酸を測定し、健康な人とがんである人のアミノ酸濃度のバランスの違いを統計的に解析することで、がんであるリスク(可能性)を評価する検査です。


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