Umami

100年の物語。
日本から世界へ飛躍する“Umami”

−もうひとつの基本味−

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Umami〈 目 次 〉

“Umami” ‐もうひとつの基本味‐
それは、アミノ酸の一種

「うま味」“Umami”は、 今から100年以上前 、日本で物理化学の基礎を築いた旧東京帝国大学(現在の東京大学)の池田菊苗博士によって発見されました。池田博士は、湯豆腐の昆布だしの中に、すでに知られていた基本味である甘味、塩味、酸味、苦味の4つの味だけでは説明できないもうひとつの味があることに気づき、この味を「うま味」と名付けたのです。
そして1908年、池田博士は約12kgの昆布から30gのうま味成分を抽出することに成功し、うま味は、アミノ酸の一種であるグルタミン酸の塩の味であることを発見します。
これこそが、「うま味」がのちに日本発の国際語“Umami”として世界に羽ばたいていく始まりの出来事でした。

国際舞台での発表により「うま味」は世界へ
1912年、国際応用化学会 
(アメリカ・ニューヨーク)

池田博士の研究が、初めて欧米の学会で発表されたのは、第8回国際応用化学会でした。題名は「グルタミン酸塩の味について 」。その前段は、こう始まりました。「注意深くものを味わう人は、アスパラガス、トマト、チーズおよび肉の複雑な味の中に、共通な、しかし全く独特で甘味、酸味、塩味、苦味のどれにも分類できない味を見出すであろう―――」
しかし、“Umami”への関心は集まりません。「うま味」は、コンブの味になじみが深い日本人には受け入れられましたが、欧米では「うま味」は味として認められなかったのです。以来、世界に“Umami”としての概念が形成されるまでの、数々の科学的検証、国際的な取り組みが始まります。

第5の基本味“Umami” - 基本味としての独立性を示す数学的解析 ‐

グルタミン酸ナトリウムの作用については、長い間、アメリカをはじめとする各国で、味覚テスト法や電気生理学による研究が行われました。しかし、ほとんどはFlavor Enhancer(風味増強剤)として扱われ、「うま味」という味は存在しないとする考え方でした。
やがて1985年になり、さまざまな国の研究者が集まり第一回うま味国際シンポジウムがハワイで開催されます。
当時、味の素KKの研究員であった山口静子氏は、数学的解析から第5の基本味「うま味」の存在を提唱します。21種類の味質をテストして味覚の違いをマトリックスした「多次元尺度法」により、既知の4基本味と「うま味」の味の類似度を解析したものです。その結果、4基本味はマトリックス上で4面体を構成しますが、「うま味」は明らかに別な次元を構成する独立した味質であることが示されました。
このシンポジウムでの成果は、単行本“Umami: A Basic Taste”として出版され、“Umami”は国際的な学術用語として公式に使用されるようになりました。

※味の素KKにて30年あまりに渡り、味の研究に従事し、のち1997年より東京農業大学教授。農学博士。

Umami: A Basic Taste

国際語“Umami”の誕生
世界に広がる認知

ハワイでの国際シンポジウム以降、世界の研究者における“Umami”に関する学問的関心が高まり、特に、電気生理学関係の研究が国際的に進展しました。その中でイタリアのシシリー島で開催された第2回国際シンポジウム(1990年)。ここでの27の研究発表は、国際的学術雑誌“Physiol. & Behav.”誌の特集号として出版され、用語としての“Umami”だけでなく、“Umami”に関する研究自体が学術的に広まっていったのです。

オックスフォード現代英英辞典第8版
(Oxford Advanced Learner's Dictionary 8th edition)より
©Oxford University Press 2015

発見から約100年の時を経て
“Umami”、「和食」は世界の味へ

池田博士によるグルタミン酸の発見からほぼ1世紀。最新の研究では、うま味成分が持つ健康的価値までが解明されつつあります。2013年には、日本の「だし」の食文化そのものである「和食」がUNESCOの無形文化遺産として登録され、“Umami”はより広くその存在を知られつつあります。また、世界ではトップシェフたちによって、健康的に、様々な料理の味わいをより豊かにするため、“Umami”を上手に取り入れる試みが進んでいます。

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